【ラッキーの不思議な旅】 17国目 チュリープバブルの国 前篇

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公開日: 2014年9月28日日曜日 ラッキーの不思議な旅 自作小説


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17国目 チュリープバブルの国 前篇




天気は真っ青の晴天。
そんな清々しい気分になれる日に、白いローブを身に纏った金髪の女の子ラッキーと妖精さんは、海よりも低い場所に国があると聞き、ひたすら歩いて現地に訪れていました。
その国は、風車と花畑が一面に広がる風光明美な国です。
国の北西には、大きな大きな・・・具体的には32kmの三重の防波堤があります。
この防波堤を使って海水を堰き止め、広大な入り江を干拓して出来た土地が国土の4分の1を占めています。
もしも、三重の防波堤が壊れたら、国そのものが壊滅しちゃう大ピンチなので、ラッキーは思った事を呟きました。

「うーん、なんで、わざわざこんな所に国を作ってるんだろう?
全ての防波堤が何らかの事故で壊れたら、一気に海水が押し寄せてきて、国が海中に沈んじゃうよ?
気になるなぁ。」

「でも、ラッキー。
この国は自然の景色が綺麗だよ?
僕はこういう国がいいなぁ。」

ラッキーの頭の上に乗っている妖精さんは、とても良い笑顔です。
妖精さんは個人的にお花が好きだから、こういった花が咲き乱れる国は大好きなのです。
でも、ラッキーはついつい頭の中で考えている物騒な事を言いました。

「あの防波堤を、私の魔法で切断したら、きっと凄い事になると思うんだ。
やってもいいかな?かな?
きっと、海水がドバーと流れてきて、国が沈んで大勢の人間が死んで凄い光景になると思うの。」

「だめぇー!
そんな事したら、さすがの僕でも絶縁だよ!絶縁!」

妖精さんが怒ったから、ラッキーはしぶしぶ諦めて、人間の国に不法入国しました。
ラッキーが光学迷彩で姿を消して、空をピョンと飛べば、すぐに人間の国の中です。







人間の街は、西洋ヨーロッパ風の石造りの建物がずらりと並んでいて、とても豪華です。
中世から受け継がれる街並みの美しさというものがあります。絵画の中の街がそのまま出てきたような重厚感なのです。
でも、可笑しい事に街中が恐ろしい熱狂に包まれていました。
街の各所で、チューリップ(植物)の丸い球根を持った男達が商談をやっているのです。
ちょうど市場の真ん中で、1人の商人が袋一杯の球根を見せびらかして、大きな声で商売をやっています。

「へい!らっしゃい!らっしゃい!チューリップの球根が今なら金貨50枚だよ!
すぐに値段が上がるからお得だよ!お得!
転売すれば大もうけは確実でさぁー!」

「「「「「買った!全部売ってくれ!」」」」」」

周りにいた人間さん達は、商人の元に殺到して、次々と金貨50枚という大金を出して買っていきます。
そして、球根を購入した人間達は、近くにいた人間達に高値で転売しょうと、新しい商談が始めます。それぞれが片手に球根を掲げて叫びました。

「今買ったチューリップの球根を金貨55枚で売るよ!
すぐに値段が上がるからお得だよぉー!」

「こっちも金貨55枚で売るよ!」

「こっちも金貨55枚!」

「金貨100枚で売るよ!」

「「「「「買った!俺に売ってくれぇー!」」」」」

このような常軌を逸した光景が繰り広げられ、一つの球根にどんどん高値がついています。
ラッキーは、不思議に思ったから、市場にいた少年に背後から話しかけてみました、

「ねぇねぇ、この国では、チューリップって特別な意味があるの?
栽培が少し難しいだけの花じゃないの?」

ラッキーの声で少年が振り返りました。12歳くらいの貴族然とした格好良い顔をしている金髪の男の子です。
背にマントを羽織っていて、手に薔薇を持っています。

「ん?
小さいレディ、どうかしたのかね?
この僕に用があるのなら、後にしてくれたまえ。
僕は忙しい・・・・・・よく見たら綺麗で可愛い娘か。
僕に何でも聞いてくれたまえ!
僕の名前はオランダ!
この国の貴族さ!」

「私の名前はラッキーだよ。よろしくね。
チューリップの球根が、どうしてこんなに高い値段で売買されているのか不思議になったから、話を聞きたいんだよ。
どうしてこんなに値段が高いの?」

オランダ少年は、目の前に可愛い娘がいるから、顔を赤くして調子に乗りながら答えてくれました。
ラッキーは、若い少年を誑かす魔性の女ですね。

「ラッキーちゃんは、この国の最近の事を知らないのかい?」

「うん、この国に来たばかりだから、事情がさっぱりなの。
教えてくれると嬉しいかな。」

「なら説明してあげよう。
美しい花を咲かせるチューリップは、最初は王族や貴族にだけ愛される高貴な花だったのだよ。
その頃から高い値段で取引されていたが、今のように値段がどんどん上がる事態になったのは最近の事なんだ。
今まで園芸家と収集家の間だけ取引されていたチューリップの売買に、一般大衆が参加してから、どんどん値段が上がってね。
今じゃ、チューリップは黄金よりも価値がある偉大な花となったのさ!」

その言葉と同時に、オランダ少年は、手に持っていた赤色の薔薇の花をラッキーにプレゼントしました。
薔薇もそれなりに高い値段の花なので、これは豪華な贈り物です。
ラッキーは素直に薔薇を受け取った後に、薔薇を見ながら呟きました。

「ふーん、この国はバブル経済の真っ只中にあるんだね。」

「?
バブル経済?
それはなにかね?」

「バブル経済ってのはね。
本来、そんなに高い値段がつかない物なのに、どんどん値段が釣りあがって、右肩上がりに経済が成長しているように見える状況の事だよ。
最後は、価値が暴落して、経済に大打撃を与えるから、非常に危ういんだ。
この国の場合はチューリップだね。」

オランダ少年は理解できなかったのか、頭を傾げます。
でも、すぐに綺麗さっぱり忘れたような笑顔で、ラッキーの右手を掴み

「それよりもラッキーちゃん。
僕と一緒においしい料理でもどうかね?
今日はチューリップの転売で大もうけして、財布が重くて仕方ないんだ。
何でも奢ってあげよう!」

「うーん、今の話を理解しないと、君、大損しちゃうだろうけど、まぁいいかな。
付き合ってあげる。
どんな美味しい料理を食べさせてくれるの?」

「それはついてからの楽しみさ!」

オランダ少年とラッキーは、二人で連れ添って、街の中心部へとゆっくり歩きました。
デートという奴なのです。





歩く最中も、街中でチュリープの球根が高い値段で売買されて、すぐに球根が転売にかけられ、住民は庭に植えてあるチューリップを盗まれないように、24時間監視している異常な光景が繰り広げられていました。
貧しい人間達は、家の中のありとあらゆる物を売って、チューリップを買うための資金を得ようと必死です。
ラッキーは、この熱狂っぷりが可笑しくてクスクス笑います。
オランダ少年は、ラッキーが何に笑っているのか、わかってないけど、ラッキーの笑顔が可愛いから微笑んでいました。
ラッキーも微笑み返します。
端から見れば、若い男女がとても初々しい甘酢っぽい恋愛をやっているようにしか見えません。
大人達が二人を見て、若い頃を思い出したり、死にたい気分になったりしています。
しばらく二人が街中を歩くと、3階建の高そうな料理屋さんが見えてきました。
少年が木星の扉を開けると、10人ほどの従業員が挨拶してくれて、席まで案内してくれます。
店の内装はお洒落で、あちこちに絵や像が飾られ、高そうなテーブルや椅子があちこちにありました。
その店内でも大勢の人間さんがチューリップの売買をやっている異常な光景が繰り広げられています。

「チューリップの球根を売るよ!球根!
すぐに値段が上がるから、転売すれば大もうけ間違いなしでさぁー!」

「「「「「「「「「「買った!俺に売れぇーー!」」」」」」」」」」」」」

ラッキーは、球根の売買を見てクスクス笑いながら、少年と一緒に一つのテーブルを挟んで、向かい合う席に座りました。
少年はやってきたウェイターの青年に、ステーキ2枚を注文してから、ラッキーと向かい合い、申し訳なさそうな顔で

「ラッキーちゃん、ちょっとここで待ってくれるかな?
僕はチューリップの転売をして、小金を稼いでくるよ。」

そういって、少年は店内で繰り広げられるチューリップの転売に参加しました。
ラッキーはちょっと不満です。
女を持たせて、チューリップに夢中な男なんて信じられません。
ラッキーは頭の上で、嫌そうな顔をしている妖精さんに愚痴りました。

「うーん、あの少年で一年くらい遊んでみようと思ったけど、ああいうタイプの男の子は私は駄目かも。
国全体がギャンブル依存症だね。
オランダ君は結婚したら、暴力夫に変貌して、無職ニートになるタイプだと思ったよ。
さっさと捨てた方がいいかな?」

「・・・ラッキー、男遊びはほどほどにした方がいいよ。
いつか、ラッキーより強い男に襲われて大変なことになるよ?
そんな事になる前に、故郷に帰った方がいいと思うの。」

呆れた顔をしている妖精さんに忠告されたから、ラッキーはクスクス笑いました。

「それで私が死ねば、世界樹になって綺麗な花を咲かせるだけだよ。
チューリップよりも遥かに綺麗な花をね。
さて、この国は私にどんな末路を見せてくれるんだろう?
私は楽しみで仕方ないよ。妖精さん。」

ラッキーの笑みは、とても良い笑顔でした。
チューリップの転売で大儲けして戻ってきたオランダ少年が、見惚れるほどに、純粋で可愛らしい無邪気な笑顔だったのです。
その笑顔には人生というものを全力で楽しもうという前向きな意志を感じられます。
少年は、若い純情に任せて、大胆な行動をしました。
ラッキーの両肩を掴んで少年は顔を真っ赤にさせて叫びます。

「ラッキーちゃん!
僕は君に言いたい事がある!」

「?
どうしたの?」

「僕と結婚を前提にお付き合いをしてください!
初めて見た時から好きでした!
ラッキーちゃんは僕の天使です!」

「えい!」

「アベシッ!」

でも、すぐにラッキーが少年の顔を殴ったから、台無しでした。
そう簡単に容易く攻略できるロリババァ(ラッキー)ではありません。


 後 編 に 続  く  



前にゆっくり戻るよ ゆっくり次に進むよ
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10 件のコメント :

  1. チューリップバブルはそれはもう酷かったらしいなw
    しかもこれが起きる前にバブル経済の経験が無いから、殆ど誰もがこの構造を見抜けないというね・・・。
    ただ封建社会の酷いところは、経済の浮き沈みに関係なく生き残る支配者層がイッパイいる所だよなw
    金貸し、両替商、商人、チューリップ農家や売買に参加した有象無象は破滅するだろうけど、貴族だけは生き残る。

    つまり、古今東西問わず、貴族の宝刀「徳政令」によってww
    ヒデェww

    まぁ現代でも債務不履行に自己破産とかにたようなのは幾らでもあるわけだけど。

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    1. (´・ω・`)チューリップバブルの時、オランダに3000人の債権者がいたけど、少数の破産者と、成金を産んだだけで経済には後遺症すら残さずに収束してるから、あんまり酷くなかったらしいですどん(こっちは酷すぎるオチ用意したけど

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  2. 球根の取引で終わっていればまだマシだったんだけどね・・・

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  3. >しかもこれが起きる前にバブル経済の経験が無いから、
    >殆ど誰もがこの構造を見抜けないというね・・・。

    バブルの経験があっても、やはりバブルにひっかかる。
    「これはバブルだけど、バブルが崩壊する前に売り逃げするから無問題」
    と、みんな考えちゃうんだね (´・ω・`)

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    1. (´・ω・`)そして経済に大打撃を与えて、物が売れなくなり、世界恐慌になるどん

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  4. 海外進出も盛んだったし、国に元気があったんだろうね。
    あの規模でイギリス、スペインとやり合ってたわけだし。

    歴史上のバブルを取り上げるなら、イギリスの鉄道債権、アメリカの原野商法も見逃せないね。
    記録には残ってないけど、古代もバブルはあったのかな。
    ローマあたりだと帝国初期のガリアを獲得した時期に徴税権の転売とかで
    あってもおかしくないと思うけど・・・。

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    1. (´・ω・`)確かオランダは強大な大陸国家と隣接している時点で、海洋国家としてやっていくのが難しく、最後はイギリスに海からぼこぼこにされるわ、陸軍国家の大軍に攻め込まれるわと悲惨だった記憶がある。

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  5. ただ、wikiの説明を読む限りだと多くの民が手形で買った、売ったを繰り返していたけど約束だけで金も物もあまり動かされていなかった。
    そして、かかわった者の多くが債務者であり債権者で兼業だったから、契約が無効にされたら一部を除き産業や経済への影響はあんまりなかったそうな。

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    1. (´・ω・`)一応、明日にupする予定のあとがきに説明を書いてあるどん。

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    2. 殆どの人達は話の種にしてただけかもしれませんね。
      A「俺、球根27個も持ってるんだぜ(口約束だけど)」
      B「下級品だろ?俺なんて横流しの上級品2種だぜ!(酔っぱらいとの口約束だけど)」
      C「俺、全部売り払っちまったわw超金持ちにwなったwww(今は確か口約束の合計で60…いや70個持ってるんだっけ?)」
      とかやり取りして楽しんでそうだ。

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