1話 俺がネットゲーした結果

14 件のコメント :

公開日: 2015年6月17日水曜日 ナポレオン無双 自作小説




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ナポレオン無双】 ☚まとめたページ



南大西洋にポツンと浮かぶ孤島セント・ヘレナ。
その浜辺を2人の男女が歩いていた。
周りには雄大な自然が溢れ、ザァッ!ザァッ!――と波の音が響く。
男はその光景を懐かしそうに見ながら呟いた。
「最初の私はここで死んだ、1821年5月、憎きイギリスの謀略で毒を飲まされて死んだのだ」
「マスター、その発言は痛いからやめた方が良いと思います。きっとその前世の記憶は妄想です」
「ミーニャン、昔から何度も言うように事実は事実なのだ。最初の私は200年前に、この場所で死んだのだ」
「……人って死んだ後も意識が残るんですか?」
「死んだ後に意識が残るかだと? 私の存在そのものが証拠だ」

そう言って20代の若い男……(自称)ナポレオン・ポナパルトは胸を反らしてふんぞり返った。
彼と会話をしている少女ミーニャンは、頭が可哀想な人を見る目でナポレオンを見ている。
誰だって子供の頃、自分は特別だ。
自分に前世があるとしたら偉人だったに違いない――と思い込む。
大人になってもそう思い続ける人間が世界にはたくさん居て、この男が自信満々に楽しそうに人生を生きているのはそういった中二病なおかげなんだろうなぁとミーニャンは思った。

「マスター、他人が聞いたら呆れますよ?ヨーロッパを征服したナポレオン皇帝を自分の前世だと思い込んでいるって誰かにばれたら黒歴史確定です。そういう中二病は早めに治さないと駄目な気がします……」
「ふん、私は事実を口にしただけだ。そこに偽りなど一切ない。偽りがあるとしたら……この世界そのものが偽りだろう?」

そう言って、ナポレオンは海を見た。
水平線の彼方まで青々と広がる広大な世界。
だが、視線を凝らしてよく見れば、微妙な歪みがある事に気が付く。
浜辺に打ち付けられる波は、不自然に揺らめき0と1の数字のモザイクが所々かかっている。
更に言えば匂いが全くない。
海に本来あるはずの――海で死んだ生物達の腐った匂いがなかった。

「そりゃそうですよ、マスター。ここはゲームの世界なんですから。私を含めて全部作り物の偽物ですよ、当然じゃないですか」

ナポレオンと会話しているミーニャンの頭にはピョコピョコ動く見事な狐耳、お尻には黄金の尻尾、着ている衣服は綺麗な巫女服。
違和感を感じさせない見事な狐娘。
男のロマンを集めすぎた愛らしい女の子がいる世界が現実の訳がない。











時は21世紀終盤。
世界初のフルダイブシステムを搭載したヴァーチャルリアリティゲーム『超大国無双』が発売された。
今までのようにプレイヤーの周囲をモニターでグルリッと囲んだ紛い物ではなく、謎の原理でプレイヤーの意識を直接、ゲームの世界に飛ばしてしまう代物。
その仕様上、ゲーム内で手順を踏んでログアウトしないと意識が肉体に帰ってこない。
発売した当初は「おい!人間の意識は脳みそにあるから、意識だけをゲームの中に飛ばすとか無理だろ!」というユーザー達からの野暮なツッコミが入ったが、現実の1時間がゲームの世界では1日になるという魅力的な要素のおかげで、空前絶後の人気を得る事になった。
『ゲームは1日1時間』の厳しい制約から人類は完全に解放され、ゲームの舞台が現実には既に存在しない歴史遺産だらけだから観光にもぴったり。
ナポレオンはそんな所に惹かれて、前世で行った事がある場所を旅していた。
だが、隣にいる狐娘ミーニャンは顔を可愛らしくプクゥーと膨らませて不満そうにしている。

「マスター、ヨーロッパじゃなくて日本を観光しませんか?この世界の日本って江戸時代の町並みが広がっていて素敵らしいですよ?徳川の江戸城とか秀吉の大阪城とか気になりません?」
「パリは私の栄光の人生がスタートした場所だ。少しくらい観光させろミーニャン」
「……どうやったらマスターの中二病は治るんですか?マスターの現実の故郷は日本ですよ?」
「いや、日本は第三の故郷だ。第一の故郷は生まれ育ったコルシカ島、第二の故郷は栄光の人生を過ごしたフランス。そこで私は貧乏貴族から皇帝へと成り上がったのだ。だから、私の人生はフランスから始まったと言っても過言ではない」

今、歩いている場所はヨーロッパを征服したフランス帝国、その首都パリ。
あちこちの道に汚物が捨てられ、表通りから離れて裏路地に行くと貧乏そうなフランス人のNPC(ノンプレイヤーキャラ)がうじゃうじゃいる。
NPCの近くをナポレオンが通りかかるだけで、彼らは唐突に話しかけてきた。

「ここはフランスの首都パリだよ!ゆっくりしていってね!」
「装備品は装備しないと意味がないよ!」
「ベルサイユ宮殿にたくさんダンジョンがあるよ!平等公とか赤字夫人がユニークモンスターとして登場するよ!」
「ナポレオン皇帝陛下が今のフランスの支配者だよ!」

ただ、ひたすら――このセリフをNPCは機械のように繰り返していた。
ナポレオンは懐かしそうな顔で、ミーニャンはうざったそうな顔でNPCを無視しつつ歩く。
裏路地は当時のフランス人の衛生観を見事に再現しすぎて、あちこちゴミだらけで汚い。

「あの、マスター。こんなに汚い街が首都なんですか?」
「街や宮殿そのものが言ってみれば巨大なトイレだからだ。窓から糞尿を投げ捨てるのは当たり前。その糞尿から防御するためにシルクハットという帽子を男は被っていた」
「えと、それって18世紀終盤の話ですよね?」
「うむ、そうだ。更に言うならベルサイユ宮殿がパリから離れた場所にあるのは、パリ市内が汚物だらけで汚いというのも理由の1つだな。あと街中で喧嘩したら汚物が凶器になるから怖いぞ」

ナポレオンはそう言った後に、裏路地に居た60歳くらいの貧乏そうでヨボヨボなお婆さんを右手で指し示し

「ところでミーニャン。このマダムは何歳に見える?」

問いを投げかけた。
ミーニャンはお婆さんのシワクチャな顔をじっくり見た後に、返事を返す。

「60歳くらいですかね?」
「いや、この女性は見た所28歳だ。収入をほとんど税金で取られて貧困に喘ぎ、老化が一気に早まった結果、外見が60歳に老けてしまった……当時の私ならそう判断する」
「人間って貧乏だからって、ここまで老いる生き物でしたっけ?私は電子生命体だからそこらへんよく分からないですけど」
「毎日、明日に不安を抱きストレスを溜めた貧民は老いやすいのだ。ストレスを溜めてイライラすれば内蔵の機能が低下し、結果的に早い老化を齎す。28歳のマダムが老婆の姿になるのだ」 
「私、電子の海を漂う電子生命体で良かったと初めて思いました、二次元最高です。現実は厳しいですよね」

ナポレオンが異常なくらい18世紀終盤のフランスに詳しかったから、きっと事実なんだろうなぁとミーニャンは思う事にした。
お婆さんNPC(28)はひたすら「前の王様ルイ16世は優秀不断な暗君だったよ!借金作って財政を完全に破綻させたのさ!人民を裏切ったゴミ!無能!」というセリフを人形のようにひたすら繰り返している。
このお婆さんは作り物のはずなのに――その顔には恨みと狂気が潜んでいるようにミーニャンには何故か思えた。











裏路地を通って大通りに行き、道をまっすぐ進むと――綺麗に整備されたシャルル・ド・ゴール広場に出た。
12本の通りが放射状に交錯する芸術的な構造。
その真ん中にビルかと思うほどに大きい凱旋門があり、翼を持った女神の彫像が上に載っている。
現実の超有名観光名所という事もあり、大勢のプレイヤー達がここでゆったりとした時間を過ごし、パーティを募集したり雑談に耽っていた。

「ベルサイユ宮殿ダンジョンで、平等公狩りをしようぜ!」
「赤字夫人狩りパーティ募集中!」
「ナポレオン皇帝暗殺イベントに参加するパーティ募集中!参加条件はLv100以上!」

ナポレオンはプレイヤー達の間を通って、凱旋門へとゆっくり近づき、そっと、門の冷たい壁に触れて感触を楽しむ。
(アウステルリッツの戦いの戦勝記念に、私が命じて作らせた凱旋門だ……)
――この凱旋門が完成した時、既に私は敗北して全ての地位を失い、セント・ヘレナで死んでいた。
この門を初めて潜った時、私は棺桶に納められた遺体だった。
ようやく…ようやく…最初の人生で直接見ることができなかった凱旋門を見れた。
私は言葉で表現できない感動を味わった。
現実の世界は戦争一直線な国際情勢のせいで、フランスへの海外旅行が出来なくて、仕方なくゲームの世界で旅行したが……歴史遺産が忠実に再現されていて愛着を持てる。
凱旋門の圧倒的な雄大さ。
この威風堂々たる凱旋門こそ、最初の私が残した成果の1つだ。
腐った王政だらけのヨーロッパ諸国を打ち破り、ヨーロッパに法による秩序という概念を広める事が出来た。
最後まで従ってくれた部下も兵士も皆、破滅させてしまったが伝説に名前を残せる事が出来て良かった……。

「あの、マスター?そこで立ち止まってどうしたんですか?」
「……ミーニャン、私はようやくフランスへ帰ってきた。そういう気分を味わっているのだから話しかけるな」
「マスターは生粋の日本人じゃないですかー」
「前世はフランス人だったからこれで良いのだ」
「はいはい、転生して良かったですね、マスター。あ、これってネット小説で昔から大流行しているテンプレストーリー『神様転生』の影響を受けたんですか?死んだ時、幼女な神様とか情けないお爺さんとか会いました?」

ミーニャンは全てナポレオンの頭の中で作り出された妄想だと思って聞いてみた。
ナポレオンは一瞬、頭が沸騰しそうになったが、電子生命体のミーニャンとこれから現実世界でIT企業を立ち上げて、大金持ちになるつもりだったから機嫌を損ねる発言はやめて、話題を変えて気分転換する事にした。

「……ミーニャン、これからログアウトして日本マップに行ってやる。だから少しは機嫌を直せ」
「あ、ようやく日本に行く気になりました?」
「ああ、私も江戸時代の町並みに興味があるからな。特に大阪城がどれほど凄い大要塞なのか見てみたい」
「じゃ、ログアウトして再ログインしたら、待ち合わせ場所は大阪城で良いですよね?」
「大阪城だな。よしわかった」

ナポレオンは右手で目に優しい緑色のメニュー画面を操作して、表示されたログアウトボタンを押した。
すぐに現実世界へと戻れると思ったら――赤い文字列が代わりに表示された。
『帰るための身体がありません』『現実で核戦争が勃発して主要都市が消滅しました』

「はっ?」

意味がわからなかった。
ナポレオンが答えを求めてミーニャンの方を見ると、向こうにも似たような赤い文字列が表示されて首を傾げている。
凱旋門の周りにいるプレイヤー達の一部も、この異変に気づいて騒いでいた。

「なんだよ!これ!」
「人間の意識は脳味噌にあるから、身体が壊れたら意識も消滅するだろ!常識的に考えて!」
「ゲームの世界に意識だけ取り残されたとか、なにそれ怖い。20世紀終盤のSF小説かよ」
「中国が核ミサイルぶっぱなしたのか?!」

ナポレオンは騒いでいる連中を見たことで、逆に頭を冷やして冷静になることが出来た。
鼻で息を吸い、口から吐いて軽く深呼吸。
すると――パリ市内から臭い匂いがした。
このゲームは匂いを再現してないはずなのに、確かに息を吸う時に臭いと感じた。
空を見上げると、0と1の数字の羅列は見えず、青い空を背景に白い雲が漂っている。
本物の匂い、本物の風景だった。
試しにミーニャンに近づいて、大きな黄金の尻尾を嗅いでみたら干した布団のような良い匂いがして、ここは偽りの世界ではなく、紛れもない現実の世界だと認識した。
再び鼻から空気を吸うとパリ市内から臭い臭い匂いがする――常識的に考えて、上下水道をナポレオン3世みたいに作って清潔な街にしろよと思った。
日本人に転生したせいでパリが不衛生な街に見えた。
そうやってナポレオンが周りを見渡していると、近くを歩いていたフランス市民がナポレオンを指し示して

「ナポレオン皇帝陛下だ!皇帝陛下がいるぞ!」

その言葉に釣られるように、どんどん市民が集まって大騒ぎになる。
市民達は両手を上げて、色んな物を空へと投げて叫んだ。

「本当だ!生のナポレオン陛下だ!」
「皇帝陛下万歳!」
「常勝不敗の大英雄ナポレオン陛下万歳!」

それはナポレオンにとって懐かしい光景。
喝采を叫ぶ人民達の群れ。
ナポレオンは、ミーニャンの鞄から手鏡を取り出して、今の自分の顔を確かめてみた。
そこにあったのは作り物の量産型男キャラの顔ではなく、若き日のナポレオンの顔だった。
いや、宣伝用に現実のナポレオンを美化して作らせた格好いい肖像画の顔に近い。
こんなありえない現実に、ナポレオンは首を傾げながら呟いた。

「ネットゲーをしたら、前世以上のイケメンになってフランス皇帝に返り咲いてしまった件」



――リアルチートの歴史がまた1ページ。


フランス「太陽王ルイ14世、国内産業ぶっ壊した上に、利益にならない戦争しすぎて100年後にブルボン王朝を崩壊させる大原因になっている件」 17世紀
http://suliruku.blogspot.jp/2015/06/1410017.html
フランス「王妃マリー・アントワネットの散財が酷すぎる件」 18世紀
http://suliruku.blogspot.jp/2015/06/18.html
フランス「ルイ16世、国家財政にトドメを刺して王朝を終了させた無能王な件」 18世紀のブルボン朝http://suliruku.blogspot.jp/2015/06/1618.html
平民「税金と経費で、収入の90%が取られて生活ができない件、平均寿命25歳」 18世紀のブルボン朝
http://suliruku.blogspot.jp/2015/06/902518.html 
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14 件のコメント :

  1. (´・ω・`)無職ニートがナポレオンに転生した方が、需要あるんだろうなぁと思ったけど、ナポレオン本人でいいや。

    ナポレオン「ミーニャン、ジョゼフィーヌ、ルイーズの3人でハーレム予定!」

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    1. 完結させるのじゃよ同志パルメ。
      出だしだけ100万本書いても、それはシベリアの枯れ木が100万本増えるだけに等しいのじゃ……。

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    2. (´・ω・`)安西先生・・・身体が複数欲しいです・・・

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    3. 左手は股間のマグナムに添えるだけ。

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    4. 見切り発車でまた詰まって最初から設定やり直しを繰り返して
      「まるで成長していない……」
      ということにならなければいいんじゃないですかねー。

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    5. はっはっは、何を言ってるんだ同志匿名よ。
      我らがパルメさんが、いつまでも足踏みなんてするわけ無いじゃないか。

      パルメの曙を刮目せよ!
      …………ですよね? パルメさん。

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    6. パルメ(´・ω・`)そんなー

      ナポレオン(´・ω・`)次は悪筆ネタいくよ!

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    7. (緻密なプロットで計画的にキャラを動かして演じさせるのでもなく、個性的なキャラクターでのアドリブで物語を積み重ねるのでもなく小ネタだけでどうやって物語を完結しようと・・・いや、もう少し様子を見よう。俺の予感だけでみんなを混乱させたくない)

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    8. 今、パルメの真価が試されている。

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    9. パルメ(´・ω・`)おらっ!頑張る!
      プロット書いたら、まともに戦争するの大英帝国とモンゴル帝国だけになったけど頑張るだ!

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    10. 常勝不敗の大英雄、パルメオンさまが必ず……必ず続きを…………。

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    11. ナポレオン(`・ω・´)ヨーロッパの統一とかどう考えても不可能だけど、ご都合主義でなんとかするわ。

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    12. 初めのミーニャンが一番に面白い。
      読みにくいって位の意見で初めから書き直してたら完結しないよゆんやーだよ
      次のミーニャンは前作読んだからかダイジェスト感がするサクサクでありといえばありなんだけど……
      ナポレオン主人公は新作外伝として面白いです。

      我らのパルメオン皇帝!!
      ちゃんと完結できる英雄に戻ってよぉ!!

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    13. 作品リメイクしてエターはSSよくあるネタだからリメイクするならきっちり一回完結まで書き上げてから別枠にしてほしいとは思いますね確かに。

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(ノ゜ω゜)(ノ゜ω゜)たまに投稿したコメントがエラーになるけど、プラウザバックすれば、投稿した文章が復活します

(´・ω・`)1日に1回、システムからスパムだと判断されて隔離処置されたコメントを、元の場所に戻しておるんじゃよ。

(ノ゜ω゜)(ノ゜ω゜)コメントの入力欄は小さいですが、右端の//をクリックして下に引っ張れば、かなり大きくなります。




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マザーテレサ(ノ●ω●) 人間にとってもっとも悲しむべきことは、病気でも貧乏でもない。 自分はこの世に不要な人間なのだと思い込むことだ。